COLUMN
2023年02月22日
MVP(Minimum Viable Product)とは何か? – 新規事業開発における効果や進め方を解説
カテゴリー:サービス, 新規事業開発
タグ:スタートアップ
顧客のニーズが多様化した現代では、より的確に顧客セグメントに合わせた製品・サービス開発が求められています。このような状況において、MVP(Minimum Viable Product)を活用した新規事業開発が普及しています。
この記事では、MVPの概要やMVPを構築する効果、またMVPにより新規事業開発を進めていく方法について解説します。
1.MVP(Minimum Viable Product)とは?
MVP(Minimum Viable Product)とは、その名のとおり製品・サービスの仮説検証を行うために構築される、最小限の機能を備えたプロダクトのことです。MVPを構築することで、新規事業開発において実際に動作するプロダクトにより顧客のニーズを確認できます。
コストをかけず短期間でMVPを用意するので、たとえ仮説が間違っていても、軌道修正が容易で、繰り返し検証が可能になります。
新規事業開発において有効なMVP
ビジネスが高度化・高速化する現代においては、顧客の細分化されたニーズに合わせた製品・サービスを、タイムリーに提供していくことが求められます。このような環境において新規事業を進めていく際には、素早くかつできるだけ低コストで顧客のニーズを正確に把握し、新規事業のコンセプトを検証する必要があります。
そこで有効なのがMVPによる仮説検証です。新規事業のコンセプトに限定した形でミニマムなプロダクトを開発し、実際に想定ユーザーに利用してもらうことで、ビジネスのコンセプトが正しいのか、もしくはどのような点に改善事項があるのかを把握できます。
MVPを構築することで、PMFを目指す
この仮説検証において、目指すべき状態がPMFです。PMFはProduct Market Fitの略称であり、提供するプロダクトがターゲットとする市場に適合している状態を表します。
PMFを目指すためには「プロダクトが適切な市場に受け入れられていること」と「顧客がプロダクトに満足していること」という2つの状態を満たす必要があります。MVPにより仮説検証を進めることで、課題を解決しPMFを目指していくのが新規事業開発における基本的なパターンです。
2. 新規事業開発においてMVPを作る効果
では、新規事業開発においてMVPを作る効果は、どこにあるのでしょうか。
顧客ニーズの正確な把握
ニーズ調査を行う方法はさまざまであり、たとえば郵送法や留置法、インタビューなどの方法も検討できます。一方で、これらの方法は実際にプロダクトを確認できず、具体的な意見が出にくいという点が課題となります。
実際に動作するMVPを想定ユーザーに触ってもらうことで、より具体的なフィードバックを受けることができます。
コストを抑えた仮説検証の実施
ニーズ調査やコンセプトの仮説検証を行う上では、そのコンセプトに合致した最低限の機能を構築すれば十分です。領域を限定した形で開発を行うことで、コストを抑えて仮説検証を行うことができます。
検証の結果、コンセプトに大きな誤りがあり、継続開発が難しいという判断となった場合でも、最低限のコスト損失で抑えられます。
スピード感のある仮説検証
最低限の機能を備えたMVPであれば、比較的短期間で開発を行うことができます。
いかに優れたコンセプトであっても、リリースするタイミングを逃してしまえば、大きな機会損失となります。また、競合他社に先行して製品をリリースされ、先行者利益を失ってしまう可能性も。
素早くMVPを開発し、プロダクトの仮説検証を行うことで、スピード感をもって新規事業開発を行うことができます。
効果を実証できれば説得力が増し、次のステップに進みやすい
仮説検証がうまくいけば、実際にお客がいて、そのサービスが使ってもらえる見込みがあることが証明できます。実際にシステムを開発するモチベーションも上がります。経営者や投資家に事業アイデアを具体的に説明できて、投資を引き出しやすくなるでしょう。
仮説検証していない事業プランは、絵にかいた餅であり説得力に欠けています。それで大きな投資をしてもらうのは簡単ではありません。経営者や投資家向けのプレゼン資料の作成に時間を費やすより、MVPで仮説検証し顧客ニーズを実証するほうが、ずっと効果的です。
3. MVPによる仮説検証の進め方
MVPによる仮説検証の進め方は以下のとおりです。
ビジネスコンセプトの定義
まずは、想定ユーザーニーズや競合分析などを通して、ビジネスコンセプトの仮説を立案します。
たとえば、AI技術を利用した求人マッチングサービスというコンセプトでプロダクト開発を行う場合は、コンセプトのコアとなる価値は「ユーザーが価値を感じられるレベルで求人を案内できるか」という観点となります。
この価値をユーザーに提供できるかを、MVPを通して検証します。
コンセプト検証に必要な最低限の機能実装
次に、MVPを構築しコンセプトを検証します。
上述した例であれば、「求人マッチング機能」に限定した形でサービスを用意します。
MVPの構築にあたっては、必ずしもプロトタイプシステムを作り上げる必要はありません。たとえば、ユーザーがアクセスするフロントページだけ用意して、内部処理は人手で実施するような方法でも実施できます。実際にAIでマッチングさせたり、プログラムにより自動マッチングさせなくても構いません。
MVPという概念を広めたことで知られるエリック・リース著「リーン・スタートアップ」では、具体的に以下のようなMVP構築パターンが紹介しています。
- 動画型MVP
プロダクトのコンセプトや簡単なデモンストレーションを動画化し、想定ターゲットへ公開することでリアクションを確認する方法です。同書ではファイル共有サービスとして知られるDropboxの事例が紹介されており、Dropboxでは3分程度の動画でプロダクトのデモンストレーションを紹介したところ、ベータ版の予約が7万5000人まで増えたという結果を得ることができました。 - コンシェルジュ型MVP
プロダクトを作るのではなく、人手で対応を行いビジネスのコンセプトを紹介する方法です。オズの魔法使い方式と呼ぶ場合もあります。
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同書では献立の提案を行う「フード・オン・ザ・テーブル」社の事例が紹介されており、実際に同社のCEOは想定顧客の自宅へ訪問し、ヒアリングを通して献立の提案を自身で実施しました。
直接訪問によるサービス提供はその提供価値が高かったこともあり、次第に利用者数が増加。人手での対応が難しくなった時点で初めて、献立の提案システムを構築し、スケールできるビジネスとして提供することで、効果的な新規事業開発を実現しました。
ユーザー利用を通した仮説検証・評価
MVPを構築したら、実際にユーザーに触ってもらって評価を行います。
ユーザーから「有休消化率や残業時間といった観点でも自身にあったおすすめをしてほしい」「自身の性格に合った会社を紹介してほしい」といったフィードバックを受けることができれば、その内容を精査したうえで機能に取り込んでいきます。
継続的な改善
評価結果を受けてMVPを改善していき、最終的にPMFの状態を目指します。
十分に市場にフィットし、ユーザーに対して価値を提供できるプロダクトを開発できた状態になれば、プロダクトを正式にリリースします。
MVPの誤解
MVPというと、勘違いをされることがあります。
MVPはWebサービスを開発すること
MVPの開発とは、最小限の機能を備えたWebサービスを完成させることだと勘違いされることがあります。
このような考え方をしていると、一通りの機能を時間とコストをかけてウォータフォールで作り始めます。でも、コアとなる価値が本当に存在しているか実証できていない状態では、ようやくWebサービスをローンチしても顧客に振り向いてもらえません。すると「あの機能が足らない」「この機能が必要だ」と多くの無駄な機能を作りこんでいきます。方向転換しようと思っても、機能が多すぎて、さらに時間とコストがかかりそのうち力尽きてしまいます。
MVPのために実際にシステムを作ってしまうと、その分だけコストと時間がかかり仮説検証に時間が掛けられなくなります。重要なのは、顧客が価値を感じられるプロダクトを最小限の時間とコストで作成することです。
MVPはコア機能を開発すること
顧客が価値を感じるコア機能を開発して、その機能をアピールすることがMVPだと勘違いされることがあります。
AIによる自動マッチングサービスであれば、まずAIを開発し、その性能をデモします。しかし、AIの開発に時間がかかる余り、実際の募集情報を登録できなかったり、求人情報を検索できなかったりと、魅力的な求人情報があるか確かめられません。その機能はまだ開発されていないからです。結局ユーザーには、AIによる機能が魅力的で役に立つのか判断が付きません。
重要なことは提供する価値を顧客が本当に感じてくれるか
事業開発で本当に重要なことは、製品・サービスが提供する価値を顧客が感じてくれるかどうかです。それが魅力的だから、継続利用したりお金を払ってくれるのです。
AIがマッチングする求人情報サービスであれば、まず求人情報がマッチングして求職者と募集企業が満足しなければ始まりません。この段階では、AIがマッチングさせた情報をリアルタイムで自動的に提供する必要もありません。あらかじめマッチング情報を用意しておいて、コンセプト動画や紙芝居・手動でマッチングの様子を伝えれば良いのです。
まずは、ユーザーが価値を感じられる求人情報を実現できるかが重要です。求人検索機能や応募機能、マイページ機能などはコンセプトのコア部分ではないため開発は後回しとしてもよいでしょう。
顧客に提供できる価値が仮説検証できていない段階で周辺機能を作っても、仮説が間違っていれば、無駄なコストと時間になるだけです。
だから、最小限の機能を備えた製品・サービスは完成させなくても良いのです。
まとめ
この記事では、MVPにより新規事業開発を進めていく方法について解説を行いました。ビジネスのスピード感が早まり、また顧客のニーズが細分化されている時代においては、MVP構築というアプローチは新規事業開発において効果的な選択肢となります。
MVP構築を実施するためには、プロトタイプシステムの構築だけではなく、本文中でご紹介した様々な選択肢が考えられます。コスト効率や検証精度の観点で最適な手法を選択することが重要といえます。