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組織・チームを継続的に成長させるナレッジの磨き方 – 暗黙知を形式知に発展させるSECIモデルとは

2023年08月02日

ナレッジマネジメントは、従業員個人が抱えているナレッジ(知識)を組織内で共有・発展・活用させて、組織全体の生産性向上やイノベーションの創出を促進する活動です。企業にとって、業務の属人化を防ぐとともに、社内コミュニケーションの活性化・生産性の向上・顧客対応の強化など、さまざまなメリットをもたらします。

特に新規事業の開発では、小さく試して繰り返し学習していくプロセスが重要になるため、学習した内容を組織・チームに浸透させることが欠かせません。

そこで今回、ナレッジマネジメントの具体的な方法としてSECIモデルを紹介すると共に、個々人が抱える暗黙知を形式知へ変える具体的な手順を紹介します。

ナレッジマネジメントの役割

ナレッジマネジメント(Knowledge Management)とは直訳すれば知識の管理ですが、単に情報を蓄積することがナレッジマネジメントなのでしょうか。特定の誰かが抱えている情報と、組織で共有されている情報は使い勝手が異なります。ナレッジマネジメントツールの中に情報が格納されていても、それを活用しなければ宝の持ち腐れでしょう。

ナレッジマネジメントとは、組織全体で情報を活用できる状態にして組織の生産性向上とイノベーションの創出に結びつける活動なのです。

暗黙知と形式知

属人化していて言語化されていない情報は、共有されず失われることがあります。しかし、誰もが扱える情報に変換できれば共有して活かすことができます。

そこで重要なのが「暗黙知」と「形式知」という考え方です。

  • 暗黙知:個人が持っている経験や知識のうち、言語化されていないものを指します。特定のタスクを達成するとき、個人が意識的に認識していない内面化された知識です。例えば、社員が持っている顧客情報や、製品開発に関するノウハウなどが挙げられます。また、自転車に乗る方法や人とのコミュニケーションの仕方などが他の人に伝えるのが難しい情報もあります。
  • 形式知:言語化された知識であり、書類やマニュアル・データベースなど、文字情報など形式的に表現された知識を指します(言語化)。形式知は、共有・蓄積しやすいとされています。形式知を活用することで、業務プロセスの改善や新たなビジネスモデルの創出などが可能になります。

ある社員が退職する際に、その社員が抱えていた暗黙知が失われてしまうことがあります。しかし、その社員の暗黙知を業務マニュアルや手順書に変換しておくことができれば、その社員の持っていたノウハウを共有できます。新しい社員もすぐに業務を行えるようになります。形式知になっていれば、それらを組み合わせて新たなナレッジとして整理したり、最適化することができます。また、形式知は他の人への伝達も効率よくできます。

ちなみに、ここでいう言語化とは、メンバー同士で会話することではありません。テキスト情報や図解などで情報の形式を変換する必要があるのです。メンバー同士の会話は何もしなければ記録されないため、それを別の人たちに伝えるには会話を繰り返さなければならない効率の低い活動なのです。

暗黙知を形式知に変換するSECIモデルとは

では、暗黙知を形式知に変換するには具体的にどうすればいいのでしょうか。

そこで注目されているのがSECIモデルです。

SECIモデルは、ナレッジマネジメントの基礎理論として1990年代に野中郁次郎(一橋大学名誉教授)と竹内弘高(ハーバード大学経営大学院教授、一橋大学名誉教授)が執筆したThe Knowledge Creating Company(『知識創造企業』梅本勝博訳、東洋経済新報社)において提唱されました。

野中郁次郎は、第2次世界大戦における日本軍の敗因を分析した「失敗の本質」や、アジャイルソフトウェア開発の「スクラム」という組織手法を紹介したことで知られています。

暗黙知を形式知に変換する手順

SECIモデルとは、Socialization(共同化)、Externalization(表出化)、Combination(連結化)、Internalization(内面化)の頭文字を取ったもので、これを次のような手順として繰り返していきます。

  1. 共同化(Socialization):人と人が、直接経験による共感によって暗黙知を暗黙知として共有すること。例えば、先輩社員が新入社員に技術やノウハウを体験談やOJTで伝えることが挙げられます。
  2. 表出化(Externalization):人が共有した暗黙知をグループで対話を通じて概念化すること。例えば、社員が持っているノウハウをマニュアルや書類にまとめることが挙げられます。
  3. 連結化(Combination):グループで抱える概念を他の知との組み合わせや、その体系化などによって組織としてモデルや理論を創造すること。例えば、社内の情報システムにデータを蓄積し、分析することが挙げられます。
  4. 内面化(Internalization):組織知とした体系化されたモデルや理論を自らのノウハウやスキルとして体得すること。例えば、社員がマニュアルや書類から学んだことを実践することが挙げられます。

暗黙知を形式知に変換する手順 [Nonaka 98] より

この手順により、知識は暗黙的知識が「抽出」「概念化」されて形式的知識になり、形式的知識が暗黙的知識に「再内面化」されてスパイラルに進化していきます。

ここでポイントになるのが、連結された形式知がもう一度暗黙知に戻るところです。学習した情報を各個人が取込み、それを実践して検証していくのです。

※ [Nonaka 98] Nonaka, I. and N. Konno (1998). “The Concept of ‘ba’: Building a Foundation for Knowledge Creation,” California Management Review , 40-3, pp.40-54, 1998.

暗黙知を形式知へ発展させる「場」が必要になる

さらにSECIモデルでは、それぞれの手順を実践する次のような「場」が必要だとしています。

  • 創発場:共同化プロセスにおいて「他者と知識の交換を行う場」のこと。
    暗黙知を暗黙知のまま共有して創発を促す場なので、一緒に作業する経験以外に、食事の場や休憩中の会話などカジュアルな場面が該当します。
    • フリーアドレス制のオフィスで、いっしょに作業する
    • ランチや休憩の時間
    • 社内での立ち話や世間話
    • 気軽に会話できるチャットルーム など

  • 対話場:表出化プロセスにおいて「暗黙知を形式知に変換する場」のこと。業務マニュアルの作成や会議でのディスカッションなどが該当します。対話の目的を明確にし、計画的に対話することが求められます。
    • 大型ディスプレイのあるオープンスペースで、業務マニュアルの作成や資料作成
    • 全体会議や定例ミーティング
    • 社員合宿 など

  • システム場:連結化プロセスにおいて「形式知と形式知が組み合わさる場」のこと。リアルタイムで更新できる資料を持ち寄るなど、それぞれが用意したテキストや図を共有しながら、ナレッジを結合したアウトプットを作り出します。
    • オンラインツールによる共同編集する
    • 社内SNSやチャットツールでディスカッション
    • 見出した明晰知のシステム化 など

  • 実践場:内面化プロセスにおいて「新たに創出された形式知が再び暗黙知に変換される場」のこと。社員一人一人が形式知を繰り返し実践し、知識を習得する機会を提供します。
    • 社内研修会
    • 勉強会の成果発表会 など

暗黙知を形式知へ発展させる「場」

創造的なナレッジをどうマネジメントするか

イノベーションにつながるナレッジを生み出すプロセスは、情報の流れのコントロールに焦点を置いた従来のやり方でマネジメントすることは難しいでしょう。ナレッジマネジメントには組織やチームが活発に動くような手助けを必要とするからです。SECIモデルを提唱した野中郁次郎は、ナレッジリーダーとしてトップマネジャーに次の役割が必要になると述べています。

  1. 知識のビジョンを作る
  2. 知識資産を絶えず再定義し、それらが知識ビジョンに合っているかをチェックする
  3. 「場」を創り、それらにエネルギーを与え、いくつもの「場」をつなぐ
  4. SECIプロセスをリードし、促進し、正当化する

組織・チームが抱える情報は、ただ共有するだけでは十分に活かせません。また、高度な機能を持った使いやすいITツールを導入しても、そこに蓄積したナレッジを人間が活かさなければ、ただの入れ物に過ぎません。

特に新規事業の開発では、小さく試して繰り返し学習していくプロセスが重要になるため、学習した内容を組織・チームに浸透させることが欠かせません。情報の活かし方をメンバーが理解して、活きたノウハウとして共有・実践を繰り返すことが、新規事業の組織とチームにナレッジを定着・発展させることにつながるでしょう。

参考資料

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