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PDCAサイクルとOODAループの違いを知ろう:新規事業開発を加速させる、課題と解決策のプロセスとは

2023年03月26日

課題解決に特効薬はありませんが、確実に改善を進めるベストプラクティスは存在しています。この記事では、新規事業開発で理解しておきたい、課題と解決策のプロセスについて解説します。特に、ビジネスの現場で定着しているPDCAサイクルと、新しい考え方として注目を集めるOODAループについてその違いを詳しく説明します。

課題と解決策についての誤解

新規事業開発などの事業企画に取り組む人にとって、ビジネス上の課題や業務課題を解決することは極めて重要です。課題を見つけ出し、それを解決して、仕組みとして定着させることがビジネスイノベーションの核心だからです。事業企画はルーチンワークではなく、クリエイティブな仕事なのです。

しかし、基本であるはずの「課題」と「解決策」という言葉でさえ曖昧だったりします。

課題とは、ビジネスや業務で直面する障害や困難な状況のことです。つまり、課題 = 問題 ですね。そして解決策とは、課題や問題を克服するための方法やアプローチを指します。

  • 課題:ビジネスや業務で直面する障害や困難な状況(問題)、要望、提案
  • 解決策:課題や問題を克服するための方法やアプローチ
  • 課題解決のプロセス:課題を特定し、解決策を策定し、実行する一連のステップ

多くのビジネスシーンにおいて、課題とは問題の湾曲表現に過ぎないと思います。たとえばお客様に「あなたの会社には問題がある」と言ったら悪口を言っているように聞こえますよね。だから「御社のビジネス課題」とやんわりと伝えるのです。問題と呼ぶとネガティブな印象をあたえるので、課題と呼んで中立的に表現しているのです。

ところが、そうでない捉え方をする場合もあるようです。

筆者は、多くの企業に対して業務改革についてインタビューしてきました。そのとき「まず業務にどのような課題があったのか説明してください」と頼むと、解決策を説明する人が少なからずいるのです。つまり「課題 = 問題」ではなく「課題 = 解決策に取り組むこと」と捉えているのです。

辞書で調べると「課題」とは、解決しなければならない問題や果たすべき任務という意味が載っています。「課題 = 問題」と考えている人は「解決しなければならない問題」、「課題 = 解決策に取り組むこと」と考えている人は「果たすべき任務」に近いものとして理解しているのでしょう。

「課題 = 解決策に取り組むこと」と考えている人は、解決策を実行しろと指示を受けているだけなのだと思います。そういう人が、実行する理由や背景まで理解していればいいのですが、「なぜ、その施策に取り組むのですか」と聞いても「上司に言われたから」としか返事がかえってきません。上司のほうも単なる思い付きだったりします。そんな解決策を実行しても、何の状況も好転しないことが多いので、注意が必要です。

課題と解決策を分けて考える重要性

それでは、課題と解決策を分けて考え利点について、さらに具体的に説明します。

課題とは、好転すべき状況

この記事においてビジネスや業務上の課題とは、ビジネスや業務で直面する障害や困難な状況と捉えています。お客様からの要望や社内からの提案なども、好転させるべき状況として課題のひとつとして把握します。

システム開発にたずさわる人はよく知っているように、システム開発に使われる課題管理表やIssue Tracking Sysytemでは、バグや要望を一元的に取り扱います。

課題は小さな複数の課題に分割できる

でも課題が大きいと、どう取り組めばいいか簡単には分かりませんよね。だから、取り組み可能な小さな課題に分割することが重要です。たとえば「売上が少ない」という課題があれば、「顧客が少ない」「購入単価が安い」という課題に分割できます。売上 = 顧客数×購入単価だからです。

また、複数の課題が数多く存在しているように見える場合も、ひとつの根源的な課題の別の側面であったり、少数の課題が絡み合っていることも少なくありません。

先ほどの「売上が少ない」という課題であれば、「購入単価の高い優良顧客が少ない」が本来の課題かも知れません。この場合は、「顧客が少ない」「購入単価が安い」と単純に分割してもうまくいかないでしょう。

このように課題を分析して分割して把握できれば、分割した課題ごとに解決策を考えやすくなります。

課題の解決策は自明ではなく複数ありうる

大きな課題の解決策は、自明ではありません。というか、課題の段階では解決策を想定しないほうが良いでしょう。なぜなら、ひとつの課題に複数の解決策があるからです。「効果は大きいがコストがかかる」「効果は小さいがすぐに実行できる」といった具合に複数の解決策が存在しています。

これを最初の思い付きだけで考えてしまうと、融通が聞かなくなってしまったり、解決したはずなのに状況が好転せずに終わったりします。

たとえば、お客様の状況を組織的に共有するため顧客管理システムを導入する場合を考えてみましょう。ここでは「お客様の状況を組織的に共有できていない」というのが課題です。そのための解決策のひとつが「顧客管理システムを導入」になります。しかし、顧客管理システムを導入しても、営業部門で誰も利用しなければ課題は解決できません。

解決策に固執していると、顧客管理システムへ強制的に情報を入力させて、営業メンバーを疲弊させることになるでしょう。

解決策を採用する理由と実行する優先順位は、課題の構造で決まる

どの解決策を採用するか、どの解決策から取り組むべきかは、分割した課題の関係性によって決まってきます。

解決策ばかりに注目しているリーダーは、すべての解決策を実行したくなって優先順位を決められません。そういう人がリーダーになると「いいからやれ」「今すぐ全部やれ」となってリソースが分散してしまいます。結局すべてが中途半端になって、なにも好転しない結果になりがちです。

しかし、課題に注目していると状況が違ってきます。小さな課題のひとつが解決できれば、状況が好転して、次に実行できる行動が増えるからです。そこで、課題の構造を理解して、課題に取り組む優先順位を決定することが重要になるのです。

先ほどの「お客様の状況を組織的に共有できていない」という課題の例を深掘りしてみると、次のような状況が分かってきました。

  • 営業日報や営業マネージャとの1on1で、共有情報は存在していた
  • 営業日報の作成と1on1に、厖大な時間が取られていた
  • そのために、顧客管理システムを使う余裕がなかった
  • そもそも営業マネージャが、収集した情報を全員に共有していなかった
  • 他のメンバーは作成が忙しくて、他の営業日報に目を通す習慣がなかった

つまり、情報が共有できていないのではなく、共有のやり方にそもそも問題!があったのです。

そこで最初にとるべき解決策は、営業マネージャとの1on1を中止することでした。

その空いた時間で、顧客情報をチーム全体でレビューする機会を作るのですが、全員が集合するのは大変なので、最小限の営業日報の共有とチャットツールによるレビューに切り替えるといった具合です。そして、関係者は誰でもいつでもどこからでも顧客情報にアクセスできるようにするのです。

このように解決策に理由もなく固執するのではなく、課題を起点に考えることで本来の状況の好転に近づけるのです。

課題解決のプロセス

それでは、課題解決を具体的にどのように進めていけばいいのでしょうか。ここでは、定番のPDCAサイクルと現在注目を集めているOODA(ウーダ)ループについて取り上げます。

PDCAサイクルとは

PDCAサイクルは、もともと工場などの生産現場における品質管理の考え方です。品質管理の権威であるエドワーズ・デミングが提唱しました。

Plan-Do-Check-Actの頭文字をとったもので、計画を立て、実行して、その結果を確認し、改善を繰り返すことで、生産プロセスや製品の品質向上を目指します。

OODAループとは

OODAループは、もともと軍事作戦を柔軟かつ的確に実行するために、アメリカ空軍のジョン・ボイドが提唱した意思決定の考え方です。

Observe-Orient-Decide-Actの頭文字をとったもので、観察、状況判断、意思決定、行動を繰り返していきます。外部状況が刻々と変化して先が読めない状況で、自律的な判断で最適な行動を迅速に実行できると言われています。

繰り返しこそ、PDCAサイクルとOODAループの違い

PDCAサイクルとOODAループは、どちらが優れているとかはありません。PDCAが古い、いまはOODAだということもありません。また略語だけ見るとPDCAとOODAはさほど違いが無いように見えますが、一番の違いはサイクルとループにあります。

項目PDCAサイクルOODAループ
外部状況変化しない刻々と変化する
プロセスサイクルこの順番を繰り返すループいつでも最初に戻れて、再開できる
期間数日 – 数週間数10秒 – 2・3日
権限計画者と実行者が分離実行者が自律的に判断
組織大きな組織向け小さなチーム向け

PDCAサイクルは、もともとが品質管理の考え方なので、外部状況の変化は想定していません。同じ製品を作り続ける場合に、作り方を改善していくのに利用します。多くの場合、プランを考える人たちとプランを実行する人たちは分かれています。新製品を作る場合は新しい製造プロセスを大規模導入することは想定していません。

これに対して、OODAループは、もともと軍事作戦の経験から生まれたものです。提唱者のジョン・ボイドは、朝鮮戦争で戦闘機のパイロットでした。そのため、戦況が刻々と変化するなかで、戦闘機を操縦しながら、自分で判断を下して行動を変えていく必要がありました。厳密にサイクルを繰り返すのではなく、状況に応じてOODAを中断して最初に戻り、またループを再開できるのです。

そのため、OODAループは、大きな組織活動に向いていないと言われています。

外部環境が刻々と変化するため、すばやく柔軟な適合が求められるアジャイル時代には、PDCAループではなくOODAループが向いています。つまり、チームが観察 > 状況判断 > 意思決定して、自律的に行動していくのです。

課題解決を進めるポイント

それでは、課題解決を上手に進めるポイントを解説します。今どきの事業開発において、よく言われている内容ですが、あらためて復習しておきましょう。

1. 改善すべき課題から始めよう

前半でも説明したように、解決先を起点にするのではなく改善すべき課題を見極めることが重要です。よく「ゴールを明確にしよう」と言われますが、現状に対してなにを改善するのか、改善したらどのように状況が好転するのか明確にするのです。

また、課題をテキストとして言語化しておくといいでしょう。ゴールが口伝えでは、なにが目標なのか分からなくなってしまうからです。また、ゴールがテキストとして記録されていれば、ゴールを変更した場合も何を変えたのか明確にできるでしょう。

さらに、最終ゴールだけでなく、次に目指すべきステップを把握することも重要です。いきなり理想像を描いてそこを目指し始めると、目指している途中で外部状況が変化してゴールが変わっても、変化に追従できないからです。

2. 解決したい課題に優先順位を付ける

ビジネスにおける課題は、たった一つではありません。複数の課題が絡み合って状況を複雑にしているはずです。

複数の課題がある場合は、課題同士の関係や構造を明確にしておくといいでしょう。そして、解決策の実行に優先順位を付けるのではなく、解決したい課題に優先順位を付けるのです。

課題に優先順位がついていれば、すべての課題が解決できない場合でも、プランBの実行を判断しやすくなります。

一方で、解決策や実行する施策だけをみて優先順位を付けるのは簡単ではありません。企画者は、すべてを実行したいでしょう。実行の現場は、簡単に実行できるものやコストやリソースがかからないものばかり取り組んで、何も状況が好転しないことがよく起こります。

3. 優先すべきは理想よりもスピード

もうひとつ良く起こるのが、理想を追求するあまり、何も変化を起こせないことです。

ビジネスや業務の改善に取り組む場合、たっぷりとヒト・モノ・カネ・時間があることは、ほとんどありません。リソースがたっぷりあれば、最終的な理想像にウォーターフォールで取り組めます。しかし、すべてのリソースが不足している場合、時間をかけてウォーターフォールに取り組む余裕はありません。時間をかけているうちにゴールが変化してしまいます。そもそも目指すゴールが正解だという保証はありません。

そこで、理想を実現するよりも、すばやく効果的な一撃をあたえて、課題の一部だけでも解決することを目指すべきでしょう。複数の課題の関係性と構造を見極めて、どこを突破すれば全体の状況を好転させられるか、走りながら考えながら手を動かすのです。

4. OODAループのため権限をあたえる

スピードを重視すると、マネジメントのスタイルも変化します。

このときマネージャは、実行チームや実行者に決定権をあたえることが重要です。それがすばやい判断と行動につながりますし、チームのやる気も向上させるからです。

ときどき、調整役だけ割り振るマネージャがいますが、決定権を持たない調整役は単なる連絡係・使い走りに過ぎません。

連絡係が集めた情報をみんなで相談して決定する体制は避けるべきです。会議に時間がとられるだけですし、誰が決定権を持っているのか、なぜその意見を採用したのか曖昧になるだけです。結局、マネージャの鶴の一声で決まっていくばかりでしょう。

みんなの意見は単なるアドバイスだと捉えましょう。考えを聞いて意見を収集することは大切ですが、それを採用するかどうか実行責任者が決定権を持つべきでしょう。マネージャの意見が、その意見を採用しろという暗黙の命令になってしまっては、権限を委譲したことになりません。すばやく行動して改善していく足を引っ張っているだけです。

実行責任者の決定が間違っていても気にすることはありません。間違いをすばやく修正できればいいのです。マネージャの意見も専門家のアドバイスも多数決の決定も、効果を上げるかどうか実行してみなければ分かりません。であれば、決定に手間と時間をかけるのではなく、手数を増やしすばやく失敗して上手に学習することを目指すのです。

ここまで、事業開発における課題と解決策のプロセスについて解説してきました。特に、ビジネスの現場で定着しているPDCAサイクルと新しい考え方として注目を集めるOODAループについて説明しました。

PDCAサイクルやOODAループは、適材適所で利用すれば大きな効果を発揮しますが、一方で限界もあります。PDCAサイクルは、スピードを重視する状況には向きません。OODAループは大きな組織への適用は向きません。また、学習した結果を組織やチームに定着させるには、別の考え方が必要になると言われています。

ここ数年、ビジネスを取り巻く環境がハイスピードで変化していると感じていないでしょうか。自分たちは変化しなくても、周囲が変化への対応力を向上させたことで、さらなる変化が促進されているのではないかと考えています。

つまり、今までのスピード感では仕事にならないのです。従来の成功体験に固執するのではなく、新たな取り組み方法を身に着けることが、増々必要になるのではないでしょうか。

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