2023年06月13日

新規事業開発、6つの失敗パターン + 1 : 新規事業の起点となるイノベーションマネジメント

カテゴリー:ビジネス, 新規事業開発

タグ:イノベーション, 失敗事例

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新規事業開発は決して簡単ではありません。ここでは、私たちが見てきた新規事業開発の失敗パターンを紹介します。また、新規事業の起点となるイノベーションマネジメントについても簡単に取り上げます。

私たちもチャレンジ途上のスタートアップ企業に過ぎません。たくさんの失敗をして、少しずつ学習しているところです。それを共有することで、新規事業開発の成功への道しるべにして頂ければと思います。

さて、新規事業は次のようなプロセスで進めるのが一般的だと思います。このとき、最初に取り組むのが、市場調査やアイデアの検討ですね。失敗パターンは、この各ステップで登場します。

「お客様は、こんなことに困っているから、◎◎◎◎な解決策があれば役立つに違いない」
「当社のナレッジを使えば、◎◎◎◎なサービスが作れるはず」

こういった案を核にして新規事業の企画を立てていきますが、プロセスを重視し完成度を高めようとすると結果的にうまくいかないことが多いようです。

1. 実際のユーザーに利用意向を確認してない

最初の失敗パターンは、実際のユーザーに利用意向を確認しないことです。「お客様は、こんなことに困っているから、◎◎◎◎な解決策を提供したら喜んでもらえるに違いない」と事業イメージができているのですが、実際に利用してくれそうなユーザーにその仮説を確認していないのです。

確認していたとしても、それがユーザーになりそうもない人だった、という場合もあります。社長・上司・コンサルタント・部外者などに意見を聞いても、それはただの感想に過ぎません。そこで認められたとしても、ユーザーに受け入れられる保証にはならないのです。

どんなに素晴らしいアイデアも、ユーザーに確認しないうちは仮説に過ぎません。ですから、実際にお金を払ってくれるユーザーに利用意向を確認しましょう。

2. 利用意向を確認する前から開発をはじめる

2番目の失敗パターンは、利用意向を確認する前からMVP(Minimum Viable Product)やPoC(Proof of Concept)のためのプロトタイプの開発をはじめることです。

MVP(Minimum Viable Product)とは、製品・サービスの仮説検証を行うために構築される、最小限の機能を備えたプロダクトのことです。MVPを構築することで、新規事業開発において実際に動作するプロダクトにより顧客のニーズを確認できます。

PoC(Proof of Concept)とは、あらたなアイデアや概念が実地検証することです。「実証実験」「コンセプト実証」と呼ぶこともあります。こちらもアイデアが実現可能で効果を発揮するか検証するために機能を絞ったプロトタイプなどを開発します。

想像だけで仮説を立ててMVPやPoCの開発を始めたり、システム開発会社を見つけて「すぐに要件定義しよう」と言い始めたりすると要注意です。本当にユーザーにとって役に立つのか確認するのがMVPやPoCの目的ですから、MVPやPoCでまったく役に立たないモノができあがることもあるのです。

しかし、MVP/PoCがユーザーに受け入れられないと、どんどん機能を追加したり、別の市場を狙ったり、広告宣伝費をかけようとしたりと、せっかく作ったのだから何とか役に立たせようとして迷走が始まります。

そもそもユーザーが必要とする核となる価値がズレていると、手の打ちようがありません。

MPVやPoCが完成する前に確認できるユーザーの利用意向が存在します。サービスの説明資料と画面イメージを用意して、想定しているユーザーに説明してみてもいいでしょう。また、ネット上に説明ページと申し込みフォームだけ公開して、実際のサービスは手動で提供することもできるでしょう。

スタートアップを量産する会社「BLUEPRINT,inc」の鶴岡 友也氏は、”事業立ち上げを成功させるコツは「ギリギリまで開発しない」こと”と述べています。

ユーザーの利用意向は、MVPやPoCの開発と並行して確認しましょう。

MVP(Minimum Viable Product)とは何か? – 新規事業開発における効果や進め方を解説 | Hexabase

3. 社内稟議や社内調整に手間と時間がかかる

3番目の失敗パターンは、社内稟議や社内調整に手間と時間がかかることです。これは、大きな会社の新規事業開発でよく聞く話です。

もちろん企業ですから、新しいアイデアを試すためにはエライ人の許可や関係部署との調整が必要になるでしょう。そのための資料作りや調査に厖大な手間と時間がかかります。資料を見せても「こういう時はどうなるの?」と質問されて、追加で資料を作ることもあるでしょう。

でも、ちょっと考えてみてください。許可が出たら新規事業の成功確率が高くなるでしょうか?

そもそも、質問に対応して多くのメンバーを納得させるために時間がかかっている訳です。こうした対応が必要になるのは、「こういうときはどうするのだろう?」「売れるには、もっとこうした方が良いんじゃないか」と全員が想像で口をはさんでいるからだったりしないでしょうか。

つまり、その企画が成功するエビデンスが少ないために、追加の言い訳が必要になっているのです。

であれば、稟議資料の作成に手間をかけるよりも、権限の範囲内でテスト販売して成果を報告したほうが説得力が増すはずです。テスト販売で既に行列ができているなら、「もっと売れ!」「うちでも売りたい!」となりますよね。

ですから、小さく試す、繰り返し検証することが重要なのです。権限の範囲内で、許可を得る前から小さく試してみましょう。

4. 継続的なシステム改善に対応できない

4番目の失敗パターンは、MVP/PoCが継続的なシステム改善に対応できないことです。

ユーザーに利用意向があることを確認してMVP/PoCを開発しても、それがそのままユーザーに受け入れられることはありません。そもそも機能を絞ったプロトタイプなのですから、継続的なシステム改善・機能追加は不可欠です。

従来のシステム開発手法はウォータフォールと呼ばれ、あらかじめ要件を決めて期限内にそれを完成させるものです。そのため、継続的なシステム改善への対応が難しくなっています。システムを改善しようとしても、最初と同じくらいの工数とコストがかかる場合もあるくらいです。

新規事業開発では、ビジネス・マーケティングサイドがユーザーの要望に継続的に対応していきます。それと足並みを揃えて、システム開発側も低コスト・短期間に継続的にシステム改善していく必要があります。こうした継続的な改善に対応したシステム開発手法・システム開発企業を選定しましょう。

5. AIやテクノロジーに期待しすぎる

5番目の失敗パターンは、新規事業のアイデアとしてAIやテクノロジーに期待しすぎることです。AIがオススメするマッチングサービスなど「AIによる新しい◎◎◎◎」といったサービスのことですね。

でも、AIを使うだけで役に立つサービスになるでしょうか?

ユーザーが期待しているのは、AIを使っていることではなく、その出力結果が自分の役に立つかどうかのはずです。たとえAIが出力していても、平凡な内容であれば役に立ちません。

ここ数年、ディープラーニングのブームがありましたが、取り組んでいた多くの企業がPoCより先に進めませんでした。最近では生成AIが多くの注目を集めていますが、特定のタスクで実際に役立つ成果を出すには、かなり工夫が必要です。

何より、AIで何かスゴイことをやろうとするなら、どんなスゴイことを期待しているのか具体的な出力サンプルをビジネス側が手作業で作ってみるのがオススメです。そうすれば、エンジニアはそれが技術的に実現可能か、AIでないと実現できないか検討できます。そのサンプル出力に価値を感じるか、ユーザーに確認することもできます。

AIや最新テクノロジーに期待するなら、そのサンプル出力を試しに手作業で作ってみましょう。

6. 事業を成長させる条件がそろっていなかった

6番目の失敗パターンは、事業を成長させる条件がそろっていないことです。新規事業を成長させるには、次のように多くの条件をクリアする必要があります。

  • 利用したいユーザーが十分いるか
  • 利用したいユーザーがお金を払ってくれるか
  • 競合がいないか。差別化できるか
  • 法律や物理的な制約がないか
  • リソースの調達や流通に制約はないか

ユーザーにサービスの利用意向があっても、それだけで事業は成長しないのです。

事業成長に必要な条件は、いろいろなフレームワークで整理できます。新規事業の企画には、リーンキャンパスなどのフレームワークで、ビジネスモデルをチェックできます。

このリーンキャンバスとは、ビジネスモデルを1枚の図で表したもので、9つの要素から構成されています。「THE LEAN STARTUP(リーン・スタートアップ)」の著者で起業家のエリック・リースが考案したものです。

+1:完璧なプランを立てようとして、チャレンジの機会を失う

現代は、変化が激しく不確実性の高い時代です。新規事業のプランニングと実行にも、俊敏性と柔軟性を盛り込む必要があります。しかし、新規事業を立ち上げるとなると、次のように最初から完璧なプランを立てようとすることが多いようです。

こうした考え方が、新規事業開発の失敗パターンの根底にあると感じています。冒頭の新規事業開発のプロセスで言えば、一番最後にある「事業を成長させる条件」から企画を立ち上げているのです。

もちろん最終的には「成長させる条件」を整える必要があります。投資の計画や判断のためには、長期的な見込みを立てておくことも重要です。

しかし、その条件が揃うまで何も実行しないのであれば、チャレンジの機会がほとんど無くなってしまいます。新しい視点からお客様を理解したり、人材を成長させたりする機会も失われてしまうのです。

新規事業開発は、従来のビジネスから地続きとは限りません。新しいサービスや提供方法・ビジネスモデルなどを生み出していくイノベーション人材が欠かせません。こうした人材には「創造性」や「問題解決力」「リーダーシップ」「高いモチベーション」など、様々な資質が必要となりますが、育成にもチームビルディングにも時間がかかります。

何より、マネジメント側にもそうした機会を生み出し見守るイノベーションマネジメントのスキルが求められるのではないでしょうか。

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